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SketchUpで制作した鉄筋モデルをベースにAR教材を開発

本ブログ「SketchUp Business」の中心となるべき、ビジネスにおける活用事例の記念すべき最初の記事として、日本の置かれている社会事情に真っ向から取り組んでいる教育機関の指導者からスタートしたいと思い我が国の職業訓練機関の代表的存在である「職業能力開発総合大学校」の西澤秀喜准教授にお話を伺うことにいたしました。

※職業能力開発総合大学校(PTU:POLYTECHNIC UNIVERSITY)とは

厚生労働省所管の省庁大学校であり、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営しています。東京小平市にあり、4年制大学課程と修士相当課程を設置し、併せて職業訓練指導員養成や指導員のスキルアップ研修を行っている教育機関になります。

ちなみに、機構が運営する教育・訓練機関にはその他に、職業能力開発大学校(10か所、専門課程2年+応用課程2年)、職業能力開発短期大学校(14か所、専門課程2年)、職業能力開発促進センター(64か所、離職者訓練)があるそうです。

http://www.uitec.jeed.or.jp/

?西澤准教授は元某ゼネコン出身で、現在はこの大学校でRC造の施工実習などに取り組む中で、若い学生達が従来の教え方では陥りやすい難しさがあることを目のあたりにし、その解決方法として同氏が考案し、開発に取り組んだ現代型ユニーク教材事例について語っていただきました。

Q1.この教材を作るきっかけを教えてください。

わたしは、建築の技能・技術を教えているのですが、この大学校では理論を学ぶだけでなく、実践的な実習を体験して技能・技術を身に付けることに力を入れています。施工実習は、木造、鉄筋コンクリート(RC)造、鉄骨(S)造の建築物を想定し、それぞれ実物大の建物をゼロから施工して、建築生産プロセスを学びます。RC造では基礎から2階床までの躯体を、5ヶ月間かけて鉄筋・型枠・コンクリート工事を体験しています。

しかしながら、学生にはこの実習が難しいらしく、図面を渡して理論や手順を講義でいくら詳しく説明しても、部材の加工・組み立て段階で必ず大きな間違いが起きてしまうのです。

施工実習で大きな間違いが起きればやり直し(手戻り)になりますが、それは容易なことではありません。

鉄筋の太さや本数、継手や定着の長さなどを間違えたまま気づかずに先の工程に進んでしまい、辻褄が合わなくなってから前の工程まで戻って直すのですから、手戻りは実習授業でも重大な損失(工期およびコスト)になってしまうのです。そこで私は、卒業研究のテーマとして「RC造の施工と管理」を選択したチームに、ほとんど学生に任せて施工を進めさせ、様子を詳しく観察して、手戻りの発生原因を探る研究を始めてみたのです。

Q2.現状の教材について教えてください。

その結果、判明したことは、知識や経験の少ない学生は2次元の図面からでは施工結果の3次元構造を頭の中に明確にイメージできないため、施工に必要な情報を図面からしっかりと読み取れていないことがわかりました。ベテランの技術者や技能者は長年の経験から図面を見るだけで構造物を3Dでイメージできるのですが、初心者は平面図・立面図・断面図等に書かれている線や数字から完成後の立体を認識できないため、思い込みや浅い理解のまま作業を進めてしまうのが原因のようでした。

それならば、教材となる2次元図面の上に完成した構造物を3Dで表示すればいいのではないか?

これがARを建築施工実習の教育訓練に取り入れてみようと思った最初の発想です。

現在は3Dモデルアニメーションで工事工程を確認できる施工手順動画などとともに「3D拡張教材群(学内呼称)」という教材セットの中の1要素としてARアプリを学生に提供しています。

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Q3.この教材を制作する過程を教えてください。

実習課題用の意匠図や構造図はもちろん私が作成して学生達に提供します。学生達は初めに、鉄筋配筋図や鉄筋加工図などの施工図を2次元CADで作図します。この時に、標準仕様書や配筋指針などの規定を正しく反映していきます。RC造には多くの規準や指針があり、その内容を学ぶことも重要な目的です。次に3DモデルはSketchUp Proを使い、自ら作成した図を見ながら学生がすべての部材を入力して作ります。また、SketchUp Proのアニメーション機能を利用して、施工手順動画を制作します。

こうして完成した3Dモデルのデータを、ArchiCAD(グラフィソフトジャパン株式会社)に転送してBimXビューワーを使ってスマホやタブレット上で配筋の詳細まで確認できるように変換します。

さらに、この3DモデルをARクラウドサーバーに保存します。ARCube(株式会社ブラージュ)という無料のアプリをスマホやタブレットにインストールして、2次元図面の上にかざすと、ARクラウドサーバーに保存した3D完成モデルが重畳表示されます。

また、実習現場の位置情報(GPS)を取得して、マーカーレスで3D完成モデルを重畳表示するアプリを制作しました。「職業大AR配筋図」、「職業大AR鉄骨図」の2種類のアプリを、AppStoreに登録しています。

これにより、組立施工を開始した実物大の構造物に重ね合わせて、3D完成モデルを重畳表示することも可能です。

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https://www.prage.jp/arcube


Q4.実習結果の効果をお聞きしたいのですが。

4組の学生(初心者の2人1組)を2つのグループに分け、片方の2組は新型教材を使って鉄筋組立の施工実習を行い、もう一方のグループは2次元図面だけの教材で同じ実習作業を行わせたところ、新型教材を使用したグループは、図面だけのグループよりも組立作業の時間が全体で1時間以上も早く終了しました。

これは約35%の時間短縮ができたことになります。

さらに作業時間を「通常作業」「手戻り」「手直し」「打合せ」に細分化して分析してみると、新型教材を使用した2組では「手戻り」(前工程に遡る修正)がゼロでした。

つまり、大きな間違いは一度も無く作業を完了できたということです。

また「打合せ」(教材の検討や相談)や「手直し」(現工程内での修正)の時間も、新型教材を使った2組のほうが明らかに短くなっていました。

すなわち、新型教材によって短時間に正確に施工できたことになります。

ちなみに終了後に学生にアンケートを実施したところ、構造物を3Dモデル化した新型教材(ARコンテンツ、施工手順図、施工手順動画)は、従来の2次元図面に比べてどれもわかりやすかったという評価でした。

学生達はARコンテンツを主に「施工前」に利用しており、2次元図面の構造物がどのような仕上がりになるかのイメージを掴むために使われたようです。

その結果、実物大の施工実習を通じて、技能・技術の習得度が高まったと推察できます。従来のようにトライ・アンド・エラーで何度もやり直すような進め方は、効果的な施工実習ではないと考えています。

Q5.今考えられているつぎのステップについて教えてください。

次に取り組もうとしているのは、実作業と仮想現実空間を融合したMR技術を活用しての教材化です。試験的にマイクロソフトのHoloLensを導入し、ゴーグル内で、3Dコンテンツを確認しながら、ハンズフリーで組立作業を実行するテストを始めております。この方法を、施工実習に使える程度の完成域までもっていくつもりです。これは、海外でも使用できる実習教材になります。

いずれはVR技術などにも取り組み、実際の施工現場での施工品質管理をはじめ、安全管理などへの活用にも取り組んでみたいと考えております。

そのために、AR・VR・MRに関するソフトやハードの進歩に注目しています。

(この研究は、平成27年度JSPS科研費(15K01009)の助成を受けたものです。)

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まとめとして

建設産業では、従来から労働者の高齢化が進む一方で、新規入職者が減少したため、労働力不足は一過性ではない構造的な問題であると認識されています。

人材不足が特に顕著な建設技術職種に対して、西澤先生のような見識者が新たな手法で臨む姿勢は非常にたのもしく感じさせられました。カタカナ文字に踊らされがちな現代社会で、今でも人の手で行う「ものづくり」の作業など、忘れてはいけないことが、確かにあるということを教えられた有意義な時間だったと思います。




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