基礎建設のトップ企業が高難度の杭工事現場で探り当てた3D活用の神髄

ジャパンパイル
社名:ジャパンパイル株式会社
URL:https://www.japanpile.co.jp/
本社:東京都中央区日本橋箱崎町36-2 Daiwaリバーゲート
創業:1923(大正12)年
代表取締役:黒瀬修介
事業内容:基礎工事関連事業およびそれに関連する事業、コンクリートパイル製造施工等を営む国内子会社の経営管理等

 

自社カタログに掲載する杭打ち機をSketchUpで描く

建物や土木構造物の土台となる基礎部分を、構造物の形状や重量、地盤の状況などを考慮して構築する基礎建設。ジャパンパイル株式会社は、杭基礎の設計や施工を専門に行う総合基礎建設会社だ。ジオトップ、大同コンクリート工業、ヨーコンという異なるルーツと専門をもつ3社が統合してできた会社で、そのうちの一社であるジオトップの前身に当たる武智工務所が「武智杭」の製造・施工を始めた1923(大正12)年から2023年で創業100周年を迎えた。

【記念動画】ジャパンパイル100年間の歴史記事該当箇所の抜粋


ジャパンパイルの特徴は、杭基礎の種類別に分業していることが多い基礎建設業のなかにあって、代表的な杭基礎である「既製コンクリート杭」「鋼管杭」「場所打ち杭」に対応していること。自社で杭の設計・製造を行い、地盤状況や構造物の規模、搬入条件、敷地条件などに適した杭を選び、施工できるのが強みだ。

施工企画部副部長兼東京支店工事計画課長の永沼信人氏


今回話を聞いた永沼氏がSketchUpを使い始めたのは2010年頃。「自社の杭製品のラインアップや施工方法をまとめたカタログを作るのに、重機(建設機械)のイラストを外注したところ『描けない』と断られてしまったんです」。業界のプロたちの鑑賞に堪えるレベルのイラストは手に余るということなのだろう。困り果てて調べたところ、クレーンやブルドーザーといった建設現場で使われる重機のイラストを、SketchUpというソフトウェアで描いている建設業従事者が全国にいるらしいことがわかってきた。
そこで永沼氏はカタログの重機イラストを自力で描き上げた。当時、社内にはSketchUpユーザーはおらず、建設業の先人たちの知見や成果を得ながら、孤軍奮闘でSketchUpに取り組んだ。

同社受付フロアに飾られている重機の集合イラスト。杭工事現場で使われる重機のイラストはすべて社内で制作されたもの。
先に掲載した【記念動画】にも重機の一部が登場する


困難な店舗建て替え工事をきっかけに本格利用が始まった

永沼氏個人の便利ツールだったSketchUpの有効性や存在感がぐっと増したのは、2016年に着工した店舗ビルの基礎工事だった。旧ビルを解体・撤去した後、新店舗を建築する案件で、旧ビル地下の外周壁や基礎は残す方向で建て替えを進めたいのだという。
永沼氏が参加した打合せでは、「地下空間の上に構台を架け、そこから地下に向けて杭をまっすぐ打設したい。どんな手順で施工するか提案してほしい」と求められた。構台というのは地下掘削などを行う重機を据える仮設の架台のことで、乗り入れ構台とかステージなどともいう。しかし、そうした条件下での杭工事が初めてなうえ、地下部分には旧ビルの外周壁のほか、構台を支える鋼材が複雑に張り巡らされている。資料や現場の観察だけでは地下と地上の位置関係を把握しきれない。そう判断した永沼氏はSketchUpで現場を3Dモデリングし、これらを可視化することにした。

地下に張り巡らされた鋼材。
構台を直接受けるのは赤色、横支材は青色、ぶれ防止材は黄色と、識別しやすいよう色分けしてモデリングされている


実際に使われた作業手順書を見せてもらうと、現場状況や重機の配置などを表現した3Dモデル画像の貼り込み、手順のポイントや留意点などを補足する吹き出しに書き込まれた文章は尋常でないほどの量と密度だ。「『留意すべきこと、気づいたことはとにかく書き出しておかないと』と思って。着工前に元請けのゼネコンと行った施工手順検討会では半日がかり、みんな手掛けたことがないから細かく確認をしなければならなかったため大変でした。結局、計画から現場管理まで私が担当したんです」
「SketchUpを施工計画作成に本格的に使い出したのはこの現場から」と永沼氏が振り返るように、難しい施工条件だったうえ、待ったなしの状況でのSketchUp投入は印象深かったようだ。この現場で、構台上から既製コンクリート杭を垂直に打設するため考案された振れ止め治具は、後に同社とゼネコンが共同で特許権を取得している。

永沼氏が統括する工事計画課の主要な業務の一つに杭工事の計画図作成がある。敷地図を下敷きにCADで重機や設備などを配置するのが業界の標準スタイルだというが、この経験をきっかけに、工事計画課ではSketchUpを使って3Dで計画する事例が増えていった。
「2D CADでも計画はできますが、見落としたりで失敗した経験もあります。3Dなら現場を具体的に想像しながら考えられるし、しっかりレイアウトしておくと“流れ”もイメージしやすい」と永沼氏。

杭工事エリアに必要な重機、機材を配置し、杭材、建設汚泥、搬入車両などのスペースを
どのくらい確保できるかによって施工本数が決まる場合がある。
また目標本数に対して十分なスペースが無いと「打てるか、打てないか」ぎりぎりの判断となって、
再計画を余儀なくされることもある。


“流れ”というのはこうだ。特に大きな現場の場合、複数の工種がオーバーラップして工事が進められることは珍しくない。「2Dだとぱっと見、敷地に隙間がたくさんあるように見えるんです。(上図の敷地でも他工種から)『こちら側が空いているだろう』と言われそうですが、『この重機は午前中ここで杭を打った後、午後はその隣に移動して杭を打つから敷地全体を使う』こともあるんです」。永沼氏は、刻々と変わる杭の施工箇所、重機の配置位置をSketchUpのシーン機能を利用して表現している。「口頭や資料で説明するのは難しいんですけど、(シーンを切り替えて時間経過を見てもらうと)『なるほど、いっぱいだ。この日は別工種の工事は入れられないね』とわかってもらえる」ようになったという。また逆に条件が厳しい場合に3Dで検証し施工可能と判断する場合もあるという。
最近では、高圧電線のたるみ具合に離隔距離を3Dで表現し、杭打機の可動範囲内で干渉しないかチェックするようなシミュレーションにも活用している。
「いろいろな種類の3Dパーツも整備しているのでストレスなく配置していける」と永沼氏が言うように、3Dによる計画では重機モデルの蓄積がかぎになる。ポピュラーな重機はメーカーが配布していたり、有志が作成したデータが公開されていたりするが、杭打機は特殊なうえ、カタログや動画などの社外向けメディアでの利用では著作権への配慮も必要になる。そこで重機の3Dモデリングで大いに力を発揮してくれたのが工事計画課の佐藤美由紀氏だ。SketchUpの手ほどきを永沼氏に受けた後、操作スキルをめきめき上げていった佐藤氏は、3Dによる施工計画作成や重機モデル蓄積のいっそうの推進力になった。



東京支店工事計画課主任の佐藤美由紀氏(上)。メーカー公開の三面図から重機の3Dモデルを起こす


SketchUpの教育と普及、杭基礎技術の継承とアピールに励む

本社施工企画部で超大型現場を担当することが増えた永沼氏に代わり、佐藤氏は東京支店が担当する首都圏地域で直近の実プロになっている現場の計画書を作ったり、材料の数量を算出したり、SketchUpで配置図を作成したりする業務を担当している。3Dの重機モデルが充実してきた一方で、最近注力しているのが、杭の工法や製造工程をアニメーションで解説する動画の作成だ。
杭基礎業界では既製コンクリート杭の高強度化と工法の高支持力化に伴い首都圏での施工が増加してきている。一方で「特に首都圏では場所打ち杭の施工が多かったため、既製コンクリート杭を使うとなると『どうやって施工するのか』と説明を求められることが多い」(永沼氏)という。口頭や文書では伝えにくい施工方法や管理のポイントは動画を見てもらえば一目瞭然だろう。

Smart-MAGNUM工法動画
既製コンクリート杭の一種で、プレストレストを加え強度を高めたPHC杭の製造工程をまとめた動画は、
社内の工場作業員や社員研修に利用するほか、社外向けでは「見本市や展示会ブースで再生したり、
建築構造設計担当者への技術説明、工場見学前の予習として見てもらったり」(佐藤氏)している。


既製杭製造工程動画
PHC杭の製造工程を数分に集約した動画のワンシーン。
動画を制作した佐藤氏は、工場に足を運んで製造工程を取材し、現場担当者へのヒアリングや
チェックバックを経るなどして内容の正確性を期した


SketchUpの業務活用は東京支店が中心になって行っていたが、新型コロナウイルス流行前に一度、全国支店の営業と工事担当者に東京に集まってもらい、佐藤氏が講師となって講習を行った。コロナ禍が収束した2024年8月には、熱心な社員有志の要望に応え、福岡で講習を開いた。テキストとして用いたのは工事計画関連業務や流れを踏まえた佐藤氏オリジナルの教材で、ひととおり習得すればSketchUpで現場計画を行えるようになる実践的な内容を目指したそうだ。



オリジナル教材は基礎編と応用編の2分冊となっている。
異なる支店間でも技術共有できるよう、教材では標準ショートカットキーによるコマンド操作を推奨している


担当業務のかたわら、SketchUpの操作方法を学んだり、従来の仕事の進め方とは異なるスタイルを試したりするのは一時的には非効率なうえ、ストレスもたまる。しかし、苦労して作った工事計画書が取引先との打合せで絶賛されればモチベーションも一気に高まろうというものだ。事実、永沼氏は全国の支店へのSketchUpの普及と、社員たちの関心の高まりを実感していると言い、今後は「支店によっては(人員数や繁忙状況で)対応できないケースが生じるかもしれない。そんなときに他支店などでフォローし合える体制があれば、もっと積極的に取り組めるんじゃないかと考えている」そうだ。

杭基礎業界全体の動きは鈍いが、建築業で進むBIM化の波はひたひたと感じるという。実際、元請会社から建物のBIMデータを提供され、「建設現場に杭打機の3Dモデルを(杭施工計画に沿って)配置してほしい」という依頼は確実に増えている。3Dでの計画作りで実績を重ね、ノウハウは確実に蓄積できている。BIMには他社に先んじて対応していける自信があると永沼氏は語る。
同社の基礎建設DXの取り組み「BIMモデルの活用」の特設サイトは以下リンクからご覧いただけます。

基礎建設DXの取り組み『BIMモデルの活用』

Twinmotionでレンダリングした杭工事現場。
いずれ重機もリアルな動きを再現できるようになれば、VRによる現場の疑似体験、
施工シミュレーション、安全教育にも活用したいと想像はふくらむ

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