ミニマルなBIMへの意欲的なチャレンジは 手痛い失敗と反省から始まった

フレイム一級建築士事務所

社名:株式会社フレイム
URL:https://frame1.co.jp/
創業:1983(昭和58)年
代表取締役:小俣忠義
事業内容:建築設計・監理、調査・検査






 

時代に合った設計の仕方、図面の書き方を独学で再構築した

BIM(Building Information Modeling)は弊社(アルファコックス)の技術解説記事*で何度か取り上げたほか、本記事の取材でもよく話題になるトピックだ。ところで、BIMは大規模プロジェクトや大手ゼネコン限定の手法なのだろうか。ハイエンドのBIMソフトを導入しないと実践したり恩恵を受けたりできないのだろうか――。

SketchUpを旺盛な研究心と探求心でミニマルな(無駄をそぎ落とし洗練させた必要最小限の)BIMとして構築・実践しているのが、今回話を聞いたフレイム一級建築士事務所の金子有太氏だ。

金子有太氏は大学建築学科で意匠デザインと構造を学んだ後、ハウスメーカー、漫画アシスタント、
インテリアデザイン事務所などを経験した経歴の持ち主。
漫画アシスタントでは幼少時からの画才を活かして背景・建物の作画を担当していたことがあるという


同社は代表の小俣忠義氏が1983年に設立、金子氏は2005年に入社した。マネジメントは小俣氏、物理作業は金子氏という緩い分担はあるそうだが、ほぼすべてのプロジェクトに一体となって取り組むスタイルを20年近く貫いている。住宅・店舗の建築設計、インテリアデザイン、耐震・省エネ計画のほか、地域のまちづくりにもかかわるなど、同社が幅広い業務を網羅するのはそれゆえだろう。最近では難しいとされる中国の一般住宅のインテリアデザインやBIMの協働に取り組むなど、海外のプロジェクトにも業容を広げている。

入社後は、建築、インテリアを問わず、「プランニングの過程を施主と分かち合う設計デザイン」をポリシーに、2005年頃からフォトリアルなCGによるイメージ共有に重きを置いていた同社。しかし、外注制作したCGが納品されるまでの間に、「『この前の案を変更したい』『昨日入ったお店のインテリアが気に入ったので取り入れてほしい』など、お施主さんから新たなアイデアや要望を次々いただくようなことが2件ほど続いてしまいました。インターネットが普及したこともあって、プラン変更を重ねてから『よっこらしょ』とCGを外注制作するというワークフローでは追い付かず、お施主様や外注先へもご迷惑をおかけすることになってしまいました」と金子氏。この経験は従来のワークフローを見直す大きな契機になった。
「時代に合った設計の仕方、図面の書き方をするべきだと痛感しました。その頃、すでにBIMが話題になり始めていて、BIMによって『先に起こした3Dモデルから必要に応じて建築情報を取り出す』ことができるようになるなら、CGが図面と別次元で描かれている“絵”で終わらず、両者は連動できるはずです。新たな空間や発想もBIMならばショールームや模型と異なる方法で現実に近いイメージを共有できると思いました」

前工程重視でプランニングした3DモデルがCGと図面に連動

その実現に最適なソフトウェアは何か。代表的ないくつかのBIMソフトは実際に購入して試してみた。「多くのBIMソフトが『デザインをしにくい』というユーザーの評価もあり、実際、私も同感でした。あくまでも計画済みの建築物を管理するソフトであって、それでは意匠事務所の核心部分ともいえる“意匠デザイン”が失われると判断しました。その点、SketchUpにはLayOutという図面作成ソフトが付属し、SU PodiumというCGレンダリングソフトがプラグインとして連携できるとのことだったので、『ちょっと試してみようか』というのが導入の経緯です。数値を入力して制御するのが難しいような造形がしやすく、お施主様との打合せ中にダイレクトにモデリングできたりするSketchUpのフィーリングが、大学時代に触れたCGモデリングソフトに似て好ましかった」のも決め手の一つだったそうだ。何より選定と導入に当たって最も重視したのは、3DモデルがフォトリアルなCGに連動する一方で、さらに図面にも連動しなければならない点だった。

現在、同社が実務で運用しているワークフローは次のようなものだ。

  • ● まず、SketchUpで立体的にプランニングする
  • ● 初回からCGパースや動画を作成し、その後も施主にまめに確認してもらう
  • ● 基本計画図はLayOutで出力する。実施設計にも備えて3Dモデルの外形は実寸で作る

木造/鉄骨造/RC造すべての躯体部分のモデリングで活用しているのが、Dibac(Dibac for SketchUp Architectural plugin)というプラグインだ。2D CADと同じように平面上で外壁や内壁を書き、サッシやドアも指定したサイズで配置すると、自由な高さで3Dモデルに変換できる。しかもDibacで作った躯体は2Dに戻すことも可能で、平面図を変更すれば3Dモデルが追従し、3Dモデルを変更すれば平面図が更新されるというように、基本計画段階で必要とされる頻繁な変更にも柔軟に対応できる。

SketchUpのダイレクトモデリングは重宝する一方で、「躯体を立ち上げたり建具を配置したりする機能は実装されていないため、“設計”には使えないと考えている人もいます。そこで、DibacのようなプラグインやSketchUpの機能を駆使していかに短時間で躯体のモデリングを終えるか」も設計で使うために重要なポイントだ。自身を合理主義だという金子氏にとって、同じ作業を繰り返すルーチンワークは極力省力化したい。多くのBIMソフトが得意なパラメトリックモデリングをSketchUpで実現するソフトの一つがDibacだというわけだ。

Dibacを用いた木造建築物のモデリング例を、金子氏の実践例を交えて紹介しよう。


❶多くのBIMソフトと同様、2D平面上に構造躯体を書いていく。木造の場合、130mmで内外壁を書いてから、2D平面上で外壁側ラインを30mm程度広げると一般的な木造壁の外形となる(金子氏は、後述する通り芯コンポーネントを作成し、その上に書いている)




❷サッシとドアを配置する。実施設計を想定し、メーカーのサッシ内法基準寸法による入力を原則としている(金子氏は、階段は既製品を使わないことが多いため、他のツールを使ってモデリングしている)




❸これらをグループ化し、[Convert to 2D/3D]ボタンをクリックすると自由な高さで壁を立ち上げて3Dモデルに変換できる




❹変更要望があった場合、2Dに戻して窓オブジェクトや壁位置の配置を変更する




❺再び3Dに戻すと変更箇所が反映されている
※サッシの大きさを変えたいときは2D上で[Capture dibac]ボタン+[Esc]キーでサッシをコピーして配置し直す。SketchUpで「モデル内の残りを非表示」をショートカット登録してコンポーネントを編集すると作業しやすい。Dibacグループの誤解除や、[Ctrl]+[Z]キーでのクラッシュ誘発の対策として定期的に別名で保存をしておくことを勧める

プラグインソフト「Dibac」による躯体および建具作成の動作動画


計画から設計、施工、維持に至る一連のワークフローを実装するのがBIMの本質であることから、実際、SketchUpで計画した3Dモデルを実施設計までつなげたくて、LayOutで実施図面まで作ったこともある。しかし、「力技と膨大な労力を要することがわかりました。多くのBIMソフトは後工程に強みがあり、SketchUpは前工程が得意。SketchUpを手離せない大きな理由の一つが、初回で必要とされるデザインと、基本計画で頻繁に起こる変更がすごくやりやすい点です。今のところ基本設計まではSketchUpと各種プラグインだけで完結できています」。

基本設計からはSketchUpの3Dモデルをエクスポートし、2D CADで外部参照して実施図面を作っている。「実施図段階でBIMソフトに置き換えることも業界では行われているようですが、取引先がBIMに対応していないため現状ではこのように運用しています」。3DモデルはLOD(Level Of Detail)**でいう300相当で、現場確認でも役立つ情報レベルを目標にしているゆえに実現できる方法だ。「SketchUp段階では簡易にモデリングする方法もあると思いますが、私たちのような小規模事務所では、あいまいな部分を先送りにしても先送り先が自社なので、結局、自分たちでやらなければならない。そのときに困らない3Dモデルが大切なんです」。
2D CADでも全体の7割程度をパラメトリックに変更可能なオブジェクトを多用するなどして、梁サイズなどの作図ミス防止と省力化を図っているそうだ。プロセスの概要を以下に説明する。


❶(金子氏の場合)LayOut上での作業を極力減らすため、コンポーネント化して実装した通り芯記号と通り芯寸法を SketchUp内に置いている(LayOutでは通り芯を書かない)


❷SketchUp内で通り芯を移動するとすべての階の通り芯記号と通り芯寸法が追従する


❸Layout側でも反映される(ここでは「2通り」を左に1,000mm移動した)

通り芯をSketchUp内でコンポーネントとして描くことにより、寸法を変更した際、LayOutも更新すれば寸法も追従して変更できるよう工夫されている


❹別のシーンで、XY情報の入った面積算出用に作ったダイナミックコンポーネントを作成しておく。それらを平面図上で尺度変更により敷き詰める


❺SketchUpのレポート生成で書き出したデータをExcelで集計し、LayOutに画像として貼り付けた面積表の例
※これらの立体設計によって従来よりも問題点がフロントロードされるため、実施図段階での変更を大幅に減らすことができている

機能と意匠と意図を具現化したミニマルBIMの実践例

こうしたワークフローを経て竣工に至った事例を見せてもらおう。下図は2023年に竣工した住宅「雨庭(あめにわ)の家」の外観と内観のCGパースと下には実際の竣工写真だ。雨庭とは、都市洪水を予防する観点から屋根などに降った雨水を下水道に直接放流せず、一時的に貯留し地中にゆっくり浸透させる構造をもった植栽空間を指す。大規模商業施設や公共施設などでの近年広まりつつあるグリーンインフラで、都市型住宅での実践例は珍しく、グリーンインフラ・ネットワーク・ジャパン2024(企業部門)最優秀賞を受賞した。


上はSUPodiumでレンダリングしたCGパース。
下は実際の竣工写真


屋根は見せどころになることが多いため、プラグインを使わずに都度モデリングを行い、外壁や基礎立ち上がりなどにはDibacを使用している。CGパースはそのままPodiumでレンダリングした。

水平ラインを強調したデザインが印象的な外観だが、母屋下がりの勾配屋根で壁上部のラインが一直線にならない外壁が一部ある。このようなイレギュラーな部分も壁を2分割してDibacでモデリングが可能だ。



穴の空いた屋根に降った雨水が雨樋パイプから排水され、倉庫上の植栽帯に滞留し、そこからあふれた雨水が滝となって地上の雨庭まで流れてくる。そうした一連の機能と意匠と意図を具現化した雨庭の家の設計では、施主への説明とイメージ共有でSketchUpは不可欠だったという。

インテリアデザインでは照明・家具を含めたトータル提案が求められるとともにスピード感も大切だ。だからこそ今後の図面化にも使える実寸での検討がなされたモデリングが有効になる。変更は間髪入れずにプランに反映し、フォトリアルなCGパースやYouTubeで限定公開した動画で施主とイメージを共有した。


上はSUPodiumでレンダリングしたCGパース。下は実際の竣工写真
カウンター収納や吊り戸などのボックス部品にはダイナミックコンポーネントを用意しており、
棚板を増やしたり扉の一部を非表示にしたりできる。
ダイナミックコンポーネントで用意できない家具上部の幕板などの部分だけをダイレクトモデリングで補足する


下図は創業100年を迎える和菓子店「青山紅谷」の建築設計とインテリアデザインだ。
CGの背景は、仮想のショールーム空間としてすでに用意してあった「青空ドーム付きの仮想街並み」で、そこに3Dモデルを配置してレンダリングしている。緯度・経度は現実の季節や時間に応じた太陽光の入射角となるよう調整してある。


日の入り直後、薄暮の状態で店舗サインがどう見えるかをシミュレーションしている。
上段はSUPodiumによるCGパース。下段は竣工写真。


「SketchUpのよいところはレンダリングをかけていないビュー画面がそのまま説明資料として活用できる多彩な非表示設定とシーン設定です。そのため、什器のサイズ計測や配置変更も、お施主様に画面を見せながらダイレクトに行うことができます。2024年に搭載された新機能アンビエントオクルージョンでさらにそのアドバンテージが高められたと思います」

質感の表現のチェック段階ではフォトリアルなPodiumレンダリングの出番だが、外構など時間的な制約で数値化が難しい表現では、画面上の3Dモデルの外形を参照した手描きパースもときどき楽しんで作っているという。



和菓子店の内観パースと実際の店舗内観(上段、中段)、手描きの外構イメージ(下段)


工期も短く室内に大きな変更は加えられないようなケースでは、パースと断面図などをLayOutに並べて配置し、施工図面にすることも試している(下図の「キジノイエ」耐震補強事例)。「床の断面線に仕様を記入してもそのイメージを想像することは難しい。そこで立体パースに仕様の注釈を入れたところ『非常にわかりやすい』と評判でした。従来の図面形式にこだわらない柔軟な運用が意外にうまくいった例でしょう。ほかにも施工会社に(SketchUpの)SKPファイルを直接渡して施工してもらったこともあります。内装工事では図面に準ずるもので依頼できるケースがたまにあります。BIMの理想はこれでしょう。それが従来型の2D図面にしようとした途端に複雑になってしまうのは悩ましいです……」。



内装リフォームでLayOutに断面図とパースを並べて配置し、パースに寸法や注釈を付けて施工図面として使用した、「キジノイエ」という耐震補強の事例

「(部屋にこもって機を織る)鶴の恩返しのように」とは取材中、金子氏が何度か口にしたフレーズだ。SketchUpやDibacの徹底したカスタマイズ、LayOutでの基本図面作成を実現する通り芯コンポーネント、家具や家電のライブラリの充実とダイナミックコンポーネント化など、来るべき出番に備える裏方仕事を指すのだろう。SketchUpの特性を最大限生かした“ミニマルBIM”へのチャレンジは現在も進行中だ。

*「BIMとは?やBIMのメリット・デメリットを解説
BIM/CIMとは?導入メリットや活用シーンについて解説」 など
**国土交通省が「BIM/CIM活用ガイドライン(案)第1編 共通編」で定義する3Dモデルの詳細度で、「300」は「対象の外形形状を正確に表現したモデル」とされる。

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