今から始めよう! 測量座標対応SketchUpで 実践する普段使いのi-Construction

昭建
社名:株式会社昭建
URL:http://www.kk-shoken.co.jp/
本社:滋賀県大津市浜大津二丁目5番9号
創業:1923(大正12)年
代表取締役社長:中村智

事業内容:土木工事、舗装工事、下水道工事(シールド、小口径推進工事)、建築工事、アスファルト合材製造および販売、砕石類販売、産業廃棄物中間処理、発電事業、労働者派遣業


測量座標対応、土木向けプラグイン「座標スイッチ」デビュー

土木測量設計・施工ユーザー向けのSketchUp Pro用プラグインソフト「座標スイッチ」が2021年9月に発表された。SketchUpにバンドルした「SketchUp for Constructionエントリー」として販売代理店経由またはWebショップで販売されているほか、プラグイン単体でも販売されている。



ほかのプラグイン同様、rbzファイルを[拡張機能マネージャー]で指定することで、「座標スイッチ」の独自機能が利用できるようになる。ツールバーに登録された8つのボタン。左から①[設定]、②[マーカー生成](マーカーを平面直角座標指定で生成)、③[マーカーインポート](マーカーをCSVファイルから生成)、④[マーカーエクスポート](マーカーの座標値をCSVファイルに出力)、⑤[数学座標系]、⑥[測量座標系]、⑦[平面直角座標テキスト]、⑧[オフセットなし]となっている。

 

「座標スイッチ」はSketchUp日本総代理店のアルファコックスが独自開発した。3Dモデリングが直感的に行えると、SketchUpが土木・測量分野で広まるにつれ、「測量座標でモデリングしたい」「測量結果から道路など線形の構造物を作成したい」要望が高まっていた。数年にわたり土木・測量ユーザーへのヒアリングを重ね、協力ユーザーの試用とフィードバックを得て、数度のベータ版リリースを経て、公開に至った経緯がある。
土木・測量ユーザー以外には聞き慣れない測量座標について少し補足しておこう。数学やCAD製図で一般的な縦軸がY、横軸がXの数学座標に対して、測量で用いる測量座標は縦軸をX、横軸をYで表す。CADなどでは任意の点を原点として製図やモデリングを行うことが多いが、測量座標では日本全国が19のゾーン(平面直角座標系の系番号)で分けられ、原点の経緯度が県単位で決められている(国土地理院「わかりやすい平面直角座標系」)。
数学座標で描いた構造物を測量座標で作られた地形図に配置する場合、構造物のXY軸を反転(Y軸周りに180度回転させて裏返しにし、時計回りに90度回転)させたうえで、原点を配置先の平面直角座標系に変更する必要があるわけだ。測量座標非対応のツールで製図やモデリングを行っていたユーザーは各自、さまざまな工夫や苦労をして測量座標に対応していたと聞く。

測量値の読み込み、地形と構造物モデルの統合を試す

今回話を聞いた株式会社昭建の兼光喜一郎氏も開発段階での検証やフィードバックで協力してもらった一人。同社のSketchUp導入は約3年前。口コミで知り、ドキュメントや動画などを特に見ることなく自宅を簡単に3Dモデリングできた。入門への敷居の低さ、直感的な操作性が気に入ったという。それをきっかけに業務で利用し始め、計画段階で構造物をモデリングし、設計照査、現場での取り合いの検討、発注者や地域住民などステークホルダーとの合意形成などで使ってきた。

兼光喜一郎氏が勤務する株式会社昭建は大津市に本社があり、滋賀県と隣接府県を中心に事業展開する。
砂利採取から事業を起こし、2023年には創立100年を迎える地元でも有数の老舗建設業者である。
建設資材の販売、大規模太陽光発電施設を建設・運営し、発電事業も営む


「座標スイッチ」のうち、兼光氏が何をおいても評価するのが測量座標値の読み込み機能[マーカーインポート]だ。「CSV形式の測量座標値が読み込める点は最も重視したところ。これがないと土木業務では使いにくいのです」。
現況の地形モデルに建設予定の構造物を配置して干渉箇所などを検討したい場面は実務でしばしばある。たとえば道路建設では座標値を読み込んで生成した線形をもとに道路付属物を検討することも多い。こうした要望に応えるには不可欠の機能なのだ。
図1は同社が施工を担当する瀬田唐橋拡幅工事の完成予想。渋滞緩和目的の右折レーンを設置するため橋の一部を拡幅するこの工事を素材に機能を試してもらう。
ツールバーの[マーカーインポート]ボタンをクリックして、現況の道路の測量値が書き込まれたCSVデータを指定。するとガイドポイント付きマーカーがSketchUp上に生成された。マーカー同士を結線して道路線形を作成し、拡幅のために新たに建設する橋脚と桁を配置したのが図2だ。

高林図1(上):拡幅後の完成予想、図2(下):道路線形に橋脚と桁を配置。
現況瀬田川にかかる瀬田唐橋(瀬田の唐橋)は日本三名橋とされる古橋で『日本書紀』にも登場する。
室町時代の連歌師・宗長が詠んだ「もののふの矢橋(やばせ)の船は速けれど急がば回れ瀬田の長橋」は
故事「急がば回れ」の語源となった


「舗装高さのデータは一見碁盤の目のように思えましたが、実際には途中で折れて他の線と交差していたりと線形はまっすぐではないんですね。現況とモデルを合わせると拡幅の桁と今の舗装の高さ関係も非常にわかりやすいです」と兼光氏。
[設定]ボタンで建設予定地の(平面直角座標系の)系番号、モデリングの原点に対応する測量点を設定し、数学座標と測量座標を紐づける。[数学座標系]ボタンをクリックすれば、通常のSketchUpでの操作同様、数学座標の「0,0,0」を原点にモデリングが可能になる。XY軸方向の違いを意識することなく、原点から何mm離れているかを基準に形状を追い込んでいけるのはうれしい。
完成した橋脚と桁モデルは[オフセットなし]ボタンで測量座標系に戻してから、測量座標系の道路線形モデルに読み込めば、正しい位置に配置される。

[数学座標系]と[測量座標系]ボタンをクリックするたびにXY軸が反転する。
[平面直角座標テキスト]を選択してモデル上の任意の点をクリックすると測量座標系の座標値を確認できる


[マーカーインポート]機能を試してもらった事例をもう一つ紹介しよう。図3は2020年、滋賀県大津市に開場した競走馬のトレーニングセンター(外厩)「チャンピオンヒルズ」の計画図だ。3Dレーザースキャナで計測した造成予定地の座標値をSketchUpに読み込み、生成されたマーカーを結線してTIN(Triangulated Irregular Network:不整三角網)を張り、地形モデルを作成。そこに厩舎や馬房、トラックなど施設モデルを読み込んで配置したものだ。
「ハイエンドの3D CADで作っていた地形モデルを、SketchUpでも実現できないか」と思い、数万点の点群データの読み込みからトライを始めて10万点程度の地形モデルなら画面上でストレスなく扱えることがわかった。敷地面積42万m2のトレーニングセンターでは、配置する構造物データ分も考慮して5万点弱に抑えたが、それでも「現況を十分表現できている」と上々の評価だ。

図3(上)はマーカーからTINを張った地形モデルに施設を配置した状態。
重ね合わせることで盛土、切土といった造成計画が一目瞭然だ。右図はマーカーを非表示にして
ガイドポイントだけ表示させた地形モデル。点群風の表現もいろいろ活用できそうだ


建設現場と土木業務を大きく変えたドローン、マシンコントロール

兼光氏は1976年に昭建に入社以来、道路を中心に現場業務に従事。代表取締役副社長を経て、現在は相談役兼情報技術課担当としてi-ConstructionCIM推進を担う、同社のICT利活用のキーマンだ。
今でこそドローンを飛ばしての現場撮影や測量は珍しくないが、同社でのドローン利用はずいぶん早い。「中学生の頃からUコン飛行機を趣味で始め、高校時代はラジコン飛行機、ヘリコプターにステップアップし、ドローンは2013年2月に購入して飛ばしていた」という兼光氏。同社が運営する太陽光発電所を上空から撮影して当時の会長に見せたところ「おお、この写真は素晴らしい、今後ドローンは何かに使えるじゃないか」となった。それをきっかけに会社でも購入し、今は5台のドローンが現場を飛び回って進捗状況を撮影したり、ドローン測量を行ったりするなど大いに活躍している。
追尾式トータルステーションやGNSSなどの位置計測装置で得た位置情報をもとに建設機械を自動制御するマシンコントロールを滋賀県内でいち早く導入したのも同社だ。道路舗装では高さの目印として設置する丁張りが不要で、しかも建機オペレータの熟練を問わず正確で迅速な施工が可能とあって、マシンコントロールの登場は施工現場の光景を一変させた。
「かつては車線規制後、多くの作業員が型枠を並べたり、高さの調整をしたりしたものです。マシンコントロールによる施工では、写真のように通りを示す最低限の型枠だけで正確に施工できる。このときは気温が30℃を超える厳しい環境だったにもかかわらず、夕方には舗装が完了、17時には片付けも終わりました」(兼光氏)

マシンコントロールによるアスファルトフィニッシャーが稼働する現場
(写真上は建機の位置をリアルタイムで計測するトータルステーション)。
同社は2年連続で健康経営優良法人の認定を受けている。新しい技術の積極的な取り込みは、
社員の健康管理や適切な働き方の実現にもつながっている


普段使いのi-Conから始めてバチバチのi-Conへ

インタビューに応じる兼光氏の言葉の端々には「バチバチのi-Con(アイコン)」という用語が登場する。これは国土交通省直轄工事で要求されるi-Construction対応をさす。ドローン測量やマシンコントロール導入は、働き方改革のためだけではない。公共工事に参加する建設会社にとってICTの全面的な活用は差し迫った課題である。
CIMに対応できる高性能の土木3D CADや、国土交通省や地方公共団体が定める要領や基準対応の各種ソフトウェアの導入や習熟に多大なリソースを割いてきた同社や兼光氏にとってさえ、i-Construction対応は油断できない。技術情報の収集やハード/ソフトの導入、人材育成はたゆまず進めていかなくてはいけない。
まずは自社のため。次いで関心は滋賀県下土木業のICT活用の底上げに及ぶ。業界団体の委員など社外活動も担う兼光氏は講演機会も多い。講演の内容、聴講者の関心はもっぱら中小建設業でのICT活用だ。2021年9月に滋賀県建設技術センターで行ったセミナーでは「i-Constructionに関する活用事例」として、ドローン測量やマシンコントロールに加え、SketchUpでモデリングした構造物に「座標スイッチ」で測量座標を設定してGoogle Earthに配置する事例を紹介。「i-ConstructionやCIM対応の入口として、“普段使いのi-Con”にはSketchUpが非常にいいんじゃないか。まずはバチバチのi-Conではなくて、業務に身近な部分から3D化やCIMに対応することが重要」という話をしたばかり。SketchUpでモデリングした3Dモデルを利用した設計照査や現場での施工検討、クライアントへの提案…、こういったものが普段使いのi-Conだ。

上図は高架道路の建設着工前に、地元住民への説明用に作成したCG、
下図は県内でサッカーチームを有するクライアントにサッカー場のレイアウトを提案したCG。
SketchUpとTwinmotionで作るCGや動画は高い品質、パフォーマンスで特に気に入っている


「高架道路ができると周囲からどう見えるか、景観はどう変わるか。それがレンダリングソフトTwinmotionのコンビでリアルに作れる。それで住民のみなさんが納得してくださる。合意が不十分なまま進めて完成してから『こんなところに道路を通すなんて!』と言われても遅い。今やそういう時代になってきているんです」
普段使いのi-ConからICT化を進め、無理なくi-ConstructionやCIMに対応できる地力をつけよう――。兼光氏の発想とまなざしは自由でやさしい。



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