SketchUp活用事例 株式会社田浦組
待ったなしで取り組んだ メガプロジェクトで高評価を勝ち取る
社名:株式会社 田浦組
URL:https://tauragumi.jp/
本社:⾧崎県⾧崎市滑石2丁目6番24号
創業:1946(昭和21)年
代表取締役:岩永一洋
事業内容:一般土木、港湾、浚渫、上下水道、舗装、宅地建物取引業、トンネル
「3Dによる現場の見える化」を牽引するCIM推進室
ウミネコの鳴き声や波音の中、岸壁沿いにカメラがスタート。近景に⾧崎県内21市町の樹木を、遠景に⾧崎女神大橋を望みながら、緩やかな丘になった緑地の園路を歩む。一転してシーンは切り替わり、カメラは右手から左手に向かって並ぶ低層の4つの建物をゆっくりパンしていく――。
(新庁 舎プロジェクトでは)Lumionを使用している
動画は2018年1月に完成した「⾧崎県新庁舎および⾧崎漁港防災緑地」(以下、新庁舎 プロジェクト)の竣工イメージだ。
⾧崎県では、旧庁舎の老朽化・狭隘化・分散化の解消、災害発生時の防災拠点施設の整備を目的に、浦上川河口に面した魚市跡地への新庁舎の移転を計画。行政棟、議会棟、警察棟、駐車場棟など行政機能の集約とともに、防災緑地(おのうえの丘)を整備した。防災緑地は⾧崎港の湾奥に位置し、海でつながっているため、発災時に道路が寸断されていても海路での物資を確保できるほか、下水を介さない便槽を地下に設け、ライフラインが途絶えても一定期間利用できるトイレを設けるなど、災害時の防災拠点としての役割も担う。
新庁舎プロジェクトのうち、防災緑地の施工を担当したのが⾧崎市に本社がある田浦組だ。⾧崎市を中心に展開する1946(昭和21)年創業の地域建設業だが、近年ではCIM推進室を設置するほか、3次元CADや3Dスキャナ、ドローンなどICT技術の導入も積極的 に進めている。
CIMとはConstruction Information Modeling/Managementの略で、「建設事業の調査 設計、施工、維持管理の各段階で発生する必要な情報について、データモデルを介し連携させることで、建設生産システム全体の効率化を図るもの」(日本建設情報総合センター)だ。
同社代表取締役の岩永一洋氏はCIM推進室を設けた意図を「(土木構造物の)3Dモデルを 中心にして現場の見える化を進めていこう。それは顧客に対してもいろいろな場面で大きな説得力になるから」だと説明する。
SketchUp Pro、新庁舎プロジェクトで大いに活躍す
冒頭で紹介した新庁舎プロジェクトの動画はこのCIM推進室の磯邉ひろみ氏が独力で作ったものだ。同社担当の防災緑地はもちろん、周辺の地形やランドマーク、防災緑地が面する岸壁、行政棟ほか4棟の建物とそれらにアプローチする進入道路に至るすべてをSketchUp Proでモデリング。3Dモデルには添景を加え、レタッチを施すなどして動画を出力している。
低層化による景観との調和、環境共生を図る「丘を生かす庁舎」を提案している
3Dモデルの活用は「新庁舎プロジェクトでは、アーバンデザイン会議という有識者による検討委員会で、いろいろなことを総合的に決めていく仕組みでした。工期が厳しい事情もあって、見える化を推し進めることで早くご判断いただこう」という理由からだったと岩永氏は明かす。当初は同社担当の防災緑地部分をモデリングして完成予想を作成する方針だったが、「それだけでは物足りないというか、建物抜きで部分的に作っても検討には不十分だと思いました。そこで建物を含む全体を作ってみたらどうだろうと現場担当者と相談し、建物図面の入手をいろいろな方面にお願いしながらモデリングを進めていきました」と磯邉氏が新庁舎プロジェクト全体の3Dモデリングに至ったいきさつを語る。
テクスチャで表現していたところを、割石1枚1枚を押し出しでモデリングして厚みをもたせている。
割石は県産出の諫早石だ
こうして作った3Dモデルを10分程度の動画にしてアーバンデザイン会議で再生してもらったところ、予想以上の高評価を得た。会議では図面、パース、模型も参考にしてはいたものの、「ご覧になった先生方が県の担当者に『なぜこれを最初に作らないのか』と。『これを作っていればいろいろなことがもっとスムーズに進んだのに』とお褒めの言葉をいただきました。そのときにできた人脈は今の業務につながっていますし、手掛けて本当によかった」(岩永氏)。
竣工後、動画は落成式や新県庁ロビーで放映されたほか、⾧崎県のWebサイトにも掲載され、大いに評判を上げたのだった。
制作を担当した磯邉氏は3DモデリングのプロフェッショナルでもSketchUp Proの達人でもない。新庁舎プロジェクトにかかわったのが入社してわずか数か月のとき。しかも、目的と用途にマッチした3Dモデラー探しから始めSketchUp Proを選定。東京で実施された1日集中講座を受講し、数プロジェクトでSketchUp Proを試した後の慌ただしいビッグプロジェクトへの参加だった。同社入社前に構造設計事務所で建築図面を書いていた経験はあったものの、集中的に作り込んだ2か月、その後工事進捗と、順次入手できた建築図面の反映に要した5か月間は、切迫した濃密な製作期間だったという。この経験をもとにSketchUp Proの操作スキルを格段に伸ばしたほか、現場技術者とコミュニケーションをとりながら、工法や工事手順上の議論を重ね、ときには逆提案するような制作スタイルを確立したのだった。
「見せるべきシーン」「説明したい内容」を3Dモデルに
新庁舎プロジェクト以外で磯邉氏が担当した3Dモデルも見てみよう。
大島の海底地盤改良工事は、SketchUp Proでモデリング、動画を作成したプロジェクトの第1号だ。サンドコンパクション工法によって海底の軟弱地盤を改良する工事で、工法と進捗説明に使いたい目的があった。海底にケーシングパイプによって砂の杭を1本1本打ち込み、地盤を締め固める工事が実際に行われているのは水深15~20mの海底。磯邉氏は、地中に砂杭を埋め固めていく様子を見せたい要望をどうやって実現すべきか悩みながらも、現場担当者や岩永氏の3人で「見せるべきシーン」「説明したい内容」にフォーカスし、密に議論しながら完成に至った。
「本当は白いケーシングパイプが上がっていくのが正しいのですが、当時はどうしてもできなくて」と、
多少の反省や課題はあるが、現場技術者とのコミュニケーションを重ねて3Dモデルをつくる現在のスタイルの
原点となった印象深い動画だ
岩永氏は「普段見られない箇所を検査官と現場担当者が検査時に確認できるよう、見える化して表現できたのは非常によかったと思う。(砂杭を打ち込むたびに盛り上がったりへこむ海底の状態を、実測値をもとに時系列で表現した動画で)『こんなふうに実際にはなる』ことがわかった。出来形管理図で書くのは簡単だが、見て直感的にわかるのはこれが一番」と、可視化のねらいが当たり、満足度は高かったようだ。
もうひとつ、現在進行中の宅地造成プロジェクトでは、造成地周辺の地形図、現況(工事予定地の現在の状況)、計画の3つを重ね合わせた動画を作成し、地権者や行政との協議で活用している真っ最中だ。
動画中、透けて見えているのはドローンで測定・取得した点群データによる現況図だ。くっきりエッジ表現されている擁壁や法面などの計画物は、SketchUp Proで作成した計画図を合成して表現している。視線を遠方に向ければ、この宅地造成地の立地状況も一目瞭然。 同社がこれまで進めてきた3Dモデルによる計画や現場進捗の見える化、説明力や提案力向 上の最終形態のようにも思える。
だが、岩永氏は「現場技術者は現場業務に追われて新しいことになかなか取り組めない。そこでまずは磯邉に3Dに取り組んでもらい、現場にどう広げるか考えていこうと考えていました。本格的に展開していく態勢が今、やっと整ったところです。CIM推進にかかわる若手職員も近々入社の予定で、今後はCIM推進室と私の3人で『この現場ではこういうことをやろう』と課題と目標を立ててやっていくつもり。若手社員を中心に体験してもらって3Dがどう役に立つのか、どんな場合に使ってどういうときに効果があるのかを確かめながら進めていきたい」と次なるステージに意欲満々だ。
各種プロジェクトで作成した動画はインターネットの動画サイトYouTubeで積極的に公開している田浦組。次は同社のどんな試みが動画として公開されるか、楽しみに待ちたい。
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<株式会社アルファコックス>
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