SketchUp活用事例 住商インテリアインターナショナル デジタル世代のインテリアデザイナーが推す使えるデザインツールの条件

住商インテリアインターナショナル
社名:住商インテリアインターナショナル株式会社
URL:http://www.interior-i.jp/
本社:東京都千代田区神田錦町3-26 一ツ橋SIビル1階
創業:1988(昭和63)年
代表取締役:久野直毅
事業内容:デザイン、企画、調達、施工、家具・カーペット・ファブリック等のインテリア関連商品の輸出入および販売

没入感・臨場感たっぷりのプレゼン画面に浸る

大型液晶モニタに映る真っ白な室内空間。床天井の水平線と壁の垂直線からなる極めてシンプルな構図。しかし、なんという没入感! まっさらなスペースに突然、放り込まれたかのような疑似体験。視覚のインパクトに気圧された後にわくのは好奇心だ。壁の先、ドアの向こう、カウンターの反対側はどうなっているのだろう。
SketchUpによる表現は実写と見紛うリアルなCGではない。むしろアニメーションの絵柄に近い。にもかかわらずインテリアデザインのプレゼンテーションにぐいぐい引き込まれる。そして、SketchUp画面上部のタブを切り替えると光景が一変する。視点を変えさまざまな方向から魅せ、空間構成を変化させていく。タブを行き来し議論しながら、クライアントの興味や意見を引き出し、デザインをプレゼンしていく――。
この光景は、東京都内のホテルラウンジのインテリアデザインを担当した萩原康平氏が実際に行ったプレゼンの一幕だ。

取材時には住商インテリアインターナショナル本社のミーティングブースにある65インチ大型液晶モニタで
プレゼンテーションを再現してもらった。視界いっぱいに広がる迫力は圧巻


住商インテリアインターナショナルは、家具やカーペット、ファブリックなどインテリア関連商品の輸出入・販売を行う専門商社ながら、社内にインテリアデザイン部門を擁する。同社が取り扱う国内外のさまざまなメーカーの家具や照明器具,内装材などを、デザインと合わせて総合的に提案できる点が強みだ。
話を聞いた萩原氏は同社デザインユニットに所属するインテリアデザイナー。美術大学でインテリアデザインを学んだ後、ゼネコン系デザイン事務所や専門商社のデザイン部門を経て現在に至る。勤務先では若手に属すが、大学時代からデザイン事務所に入り浸っていたというからキャリアは豊富だ。

記事で紹介した画像や写真は「ラ・ジェント・ホテル新宿歌舞伎町」のもの。
日本有数の繁華街・歌舞伎町に建つホテルで2019年8月に開業した。
1階ラウンジの「CAFE & BAR Crospot」はエキゾチックな雰囲気のスポーツバーだ。
図はSketchUpのパース(左)とほぼ同じアングルで撮影した竣工写真(右)


デザインのブラッシュアップ力が高いSketchUp

「玄関から居間に至るまでスケッチを100枚手描きせよ」といわれた時代もあったインテリアデザインの世界。萩原氏自身はCADソフトやモデリングソフト(モデラー)を当たり前に受け入れる世代で、ペンやスケッチに代わるデザインツールとしてSketchUpを自在に使いこなす。とはいえ、これまで使ってきたツールはコスト、取り組みやすさ、勤務先の環境、上司の意向などで変わり、萩原氏自身もいろいろ模索を重ねてきた。所属するデザインユニットの標準ツールは別のCADだが、あえてSketchUpを使い続ける理由は何か。
第一に学習コストが低いこと。初心者でも半日あれば操作の基礎が学べるのは、ほかのCADにはない利点だと萩原氏は言う。曲線や曲面造形に長けたモデラーの使用経験もあるが、インテリアデザインは基本、直線的で平面な世界。基本的なモデリング能力を備え操作や処理スピードが速いSketchUpが向く。
デザインのブラッシュアップ力が高く、難しすぎない点もいい。ほかのモデラーを使用した経験では「パラメータがありすぎてどの設定をいじったら何が変わるのか直感的でなく、なじめなかった」。その点、CADのプロではないインテリアデザイナー自身でスタディができるSketchUpのシンプリシティが気に入っている。ツール操作の時間は極力減らし、クリエイティブな時間を増やしたい。その点でSketchUpは簡素でありながら強力な武器だと思う。

上段の造作カウンターをSketchUpのスタイル変更とシーン機能を使い、下段のように図面上に表現した。
このような表現の変更を簡単かつ素早く行える


そして「SketchUpにはレンダリングの概念がない点も利点です。ほかのCADやモデラーでは、モデリング後、数十分から数時間のレンダリングを実行して絵を完成させます。一方、SketchUpはトゥーンレンダリング表示されています。レンダリング工程がなければデザインスタディやブラッシュアップの効率が高まります。自分が検討しているデータとプレゼンのための見せるパースとの間に境目がないのは、デザインを練り上げていくうえで非常にやりやすいのです」と萩原氏。
“境目”とはつまり「ほかのツールの場合、デザインして社内で検討し『これでいこう!』となった後に、お客様に提出する資料用に時間のかかるレンダリング計算を行う。レンダリングの結果、想像と出来上がったパースとのギャップ。社内での検討資料と提出用資料とのギャップ」のことだ。その点、SketchUpは「検討段階でのモデリングが絵的にもきれいだし、レンダリングがないに等しいので、そのままプレゼンにもっていける」。
目が肥えたデベロッパー向けのプレゼンでは相手の反応も気になるところ。リアリズムを追求したCGパースに比べ、エッジと輪郭が強調されたSketchUpの絵は通用するのだろうか。
「上々の反応なので自信をもって提出しています。一度だけ、資料のパースがなぜレンダリング画像でないのか問われたことはありますが、画像制作に要する外注費を示し、デザインの出戻りのたび費用がかかるので内々の打合せではこれでやらせてほしいと説明しました。逆にこの画風を好むお客様もいらして、『我々の世代には懐かしいタッチだね。水彩画風の輪郭線で女性を描く(漫画家、イラストレーターの)江口寿史を思い出す』と盛り上がったことも。手描きスケッチ風で全然いい、コンセプトの大枠を伝えるのには打ってつけというのが萩原氏の実感だ。

プレゼンではときに「SketchUp Viewer」も活用する。
マウスよりも直感的に使えるので、iPadを相手に渡して内観の見え方を自由に確認してもらうのに便利だ


「おまけ」なんて言わせない。LayOutをプレゼンに活かす

萩原氏が重宝して使っているのが、SketchUp Proに付属するLayOutというプレゼン用2Dソフトウェア。SketchUpで作った3Dモデルを2Dに投影して寸法付きの図面を作ったり、パースを配置した説明資料を作成できる。おおもとの3Dモデルに手を加えるとLayOutにも変更内容が即座に反映されるのが特徴だ。
萩原氏お勧めのLayOut活用方法は、LayOutファイルにプレゼンで必要になりそうなシート(レイアウト)をあらかじめ全部作ってしまうこと。「どういうストーリーでプレゼンを展開するか、紙芝居をイメージしてシートを作っています。例えばこのホテルラウンジのプレゼンでは1ページ目で全体の空間イメージを説明し、2ページ目は平面図、3ページ目は俯瞰図、4ページ目は内観のパースにしようと決めていました」。初回、2回目、3回目とプレゼンを重ねてもLayOutの構成自体は変わらないが、内容の床材や照明、椅子の種類はどんどん変わる。3Dモデルの作り込みや変化に応じて資料も随時刷新されていくわけだ。

SketchUpでは同一の3Dモデルから異なる表現の平面図などへもスタイルで切り替えられる。
3Dモデル(上図)から作成した平面図(中図)と家具の意匠図(下図)


「(デザインされた床壁などがない)プレーンな状態での建築の長所短所をとらえて、どう空間構成するか、どんなコンセプトにするか、どういうマテリアルを張ったらいいか。検討の当初ではそんな思考過程を経ています。そしていったんプレゼンの全体感をつかむためにLayOutでラフな資料を作成し,その後3Dモデルをブラッシュアップ。床材を張ったり、家具を配置していけば、それを反映した完成度の高い資料が作られる。コンセプトを練り始める初期段階から資料全体を見渡し、出戻りなく進められるのは大きなメリットだと思っています」
SketchUpユーザーでも、画像データやスクリーンショットをPowerPointに貼り込んでプレゼン資料は作っている人は多いだろう。設計変更が発生したり、マテリアルの色、素材が変われば関連画像を差し替えなければならない。この作業の煩雑さと非生産性をLayOutは解消してくれるのだ。萩原氏にならってトライしてみる価値は十分にある。

デザインユニットの萩原康平氏。「『時間をかけすぎる』と指摘されることもあるが、
以前なら模型での確認、今なら3Dモデルでの検討。そういうデザインスタディの重要性を発信したい」という


所属先では、SketchUpユーザーとしても少数派の萩原氏。今後はデジタルツールによるデザインスタディの有用性、SketchUpの利便性を発信していくつもりだと語る萩原氏のいっそうのイニシアチブに期待したい。

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