東急建設S職編:東急建設におけるシニア社員対する3次元モデリング研修の実施

はじめに

ある業界関係者は、「現在の建設・土木業界は歴史上のカンブリア紀に似ている。」と語っています。
これは建設・土木業界が大転換期に入ったと言うことを意味しているそうです。
そこで「実際の現場はどうなのだろうか」という興味を持ち、都市型土木で有名な東急建設株式会社様へ取材をお願いしました。
先方とのお打合せの結果、取材内容は以下の3部構成になりました。
「東急建設におけるシニア社員に対する3次元モデリング研修の実施」
「SketchUp活用事例1:東急建設企画設計グループにおいて計画立案/プレゼンに活用」
「SketchUp活用事例2:東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事の司令塔」
まず最初に東急建設株式会社土木事業本部事業統括部ICT推進グループの井出部長と水野さんによる「東急建設におけるシニア社員に対する3次元モデリング研修の実施」についてです。


Q1
S職(60歳をすぎた社員)を対象にSketchUp Proの3次元モデリング研修を必須で実施するようになったきっかけを教えてください。

A1
水野:2013年に高齢者雇用安定法が改正され、この影響で多くの企業が定年を延長することに踏み切りました。
その流れの中で高齢者の継続雇用を実施するにあたり、「60歳前半の社員を雇用する際、シニア社員の貴重な知見やノウハウ等を戦略的に活用していくためには、どうあるべきか?」という課題が会社の部署内で検討されることになりました。
井出:S職(60歳をすぎた社員)の中には、

  • それぞれの担当施主に好かれており、専門的な営業継続を求められる人。
  • 若い社員に対し、情熱的な指導力を持ち、教育分野で活躍していただける特種な人。

これらにあてはまる方達が、一定の比率で存在します。
その方々については考えるまでもなく、継続していただく理由もポストもあるわけですが、上記以外の人達は、一般的に言えば、今まで現場所長をやっていた人が、現場で助言をしていくことが仕事になります。しかしながら、実際は若い人達の間で、S職の方々との折り合いのつけ方がうまくいかない。
どう活躍してもらうのが最適か悩んでいました。
そのような状況下で注意深く見ていくと、今の若い人は2Dの図面を見て3Dを思い起こす読図能力が弱いことに気づきました。
それに対し、シニア社員は長い間2Dの図に慣れており、頭の中で3D化ができるわけです。「もし、彼らが実際に3Dの絵が描ける能力を持てば若者とうまくやれるかも・・・。」
上記のことは作業所内や協力業者間の打ち合わせ、施主や近隣住民に対する説明にも直結する問題解決に使えるのではないか。という思い付きがきっかけになったのです。
実は、わたし(井出部長)も60歳になってからSketchUpを使い始めました。
なんとか使えるようになり、次に社内の有志を集めて小さな講習会を開きました。現場作業を意識した「SketchUpの独自マニュアル」も作りました。
その実績を基に会社上層部にこのS職活用提案をしたところ認められ、2017年からICT推進グループの業務として研修会を実施するようになりました。



Q2
2017年からはじまったことなので、まだ始まったばかりですが、成果はありましたか。

A2
井出:まず、研修を実施して分かったことは、年齢に関係ないということ。入り込める人は歳に関係なくSketchUpを使いこなす能力を身につけていきます。
私見ではありますが、実際に使いこなせるのは4人に1人の割合ぐらいと感じています。
土木部門では年間20人くらいがS職になっていきますので、1年に5人ずつ使いこなす人が増えるという計算になります。
それは企業にとって有益なことと考えています。
研修受講者に研修終了後フォローとして宿題をだしますが、研修者の中には翌週に課題を提出してくる人もいます。
最近では着工会議の際に、S職の人が描いた3Dベースの施工計画図を見る機会もでてきました。
スタートして1年ですが、そこそこ使える人が出現しはじめたということですね。
いろいろな現場や施主サイドから3Dで描いてくれという要望が増えつつあります。
現在、S職以外に新入社員の教育でこの研修を取り入れています。
このまま若手とシニアの研修の実績に刺激を受け、より多くの中間層も使いはじめることを期待しています。
上記研修による社内のフロントローディング力の強化ですね。


Q3
最後に、今後の展望について語っていただけますか?

A3
水野:S職へのSketchUpの3次元モデリング研修を土木学会で発表したところ、とても反響がありました。
現場ではS職の作品が出はじめているので、これからは相互の連絡会を作ってより使いやすい環境を構築していきたいと考えています。
さらに試験的にですが、Eメールを使って宿題をだしてみています。
協力業者からの要望で、研修についての説明会を開くこともでてきました。また一歩踏み込んだ使い方として、道路工事現場の鉄筋探査シミュレーションにもトライしています。


あとがきとして

「この後、協力業者に対しSketchUp講習の説明会を開くことになった。」とこの取材もあわただしく終了しました。
取材の帰り道、わたしは一人考えていました。
「実行力のある人の存在により、人生は規定路線と違う未来が見えてくることもあると。」
この研修に携わられた土木事業本部 事業統括部 ICT推進グループの皆さまに敬意を表します。

導入事例記事に戻る